不思議電波塔




 何でもないことのようにさらりと言う忍に、四季がその横顔を見る。

「──忍って」

「何?」

「ううん。聖女なのか娼婦なのか乙女なのか熟女なのか天使なのか悪魔なのか、わからない境地に立っているようなこと言うよね。時々」

「何それ。難しい人に見えるってこと?」

「う…ん。視点が包容力ありすぎるというか達観しすぎているところあって、男が気後れしそう」

「気後れすることないのに。ただそう思っただけよ。四季は気後れするの?」

「気後れというより──僕も忍を幸せにしたい思いがあるから」

「どうして?四季が私を大事に想ってくれているの、幸せよ。四季は私を女という括りで見ているんじゃなくて、揺葉忍として見ていてくれるの、わかるから。たったひとりの人間として見てくれる人がいるのって、嬉しいもの。だから私も四季をそういうふうに想ってる」

「そう?」

「うん」

 すっきりした一途な雰囲気は忍独特のものだ。

 愛されても忍そのものを束縛することは出来ないだろうという、何処か自然にも似たとらえどころのない鷹揚さが、かえって惹きつける魅力になっているのだろう。



(たすけて)



 ふと、流れている曲の音量に揺らぎが生じた。

 ヴァイオリンの音程がピーンと一定の音を保ったまま止まってしまった。

 四季は何が起こったのかと店内を見回す。しかし、異変があったのはほんのわずかな時間で、すぐに曲は続きを奏で始めた。

 機械の故障だろうか。

 四季が忍の方に視線を戻すのと、忍がその場に座り込むのとが同時だった。

「忍!?」

「……」

 忍は苦しげに言った。

「四季…は平気?」

「つらそうなのは忍の方だよ。僕は何ともない」

 四季は安心させるように言う。

「そう。声は聞こえない?」

「声?」

「『たすけて』って」

「ううん。僕には。どんな声?」

「たくさん…。響いてる」



(たすけてけてけてけて──たたたたすすけけけけててて)



 顔が白くなってしまっている。気分が悪そうなのは一目瞭然だったため、四季は忍を抱き寄せると店内の床に座り込んだ。

「とりあえず座って」

 四季が座ってくれているので、忍も棚に背をもたせかけて座り、目を閉じた。