何かただならぬことが起こっているのだろうか?
それに、目の前にいるのは忍本人なのだろうか?由貴と涼の友達である揺葉忍としての雰囲気から、もう違ってしまっている。
こちらに敵意があるような様子ではないのが救いだが。
「何処から入ってきたの?」
由貴が聞くと、忍はわからないというような表情をした。
たぶん忍本人ではないだろう。
本人なら、どうしてここにいるのか、そういったことから話すはずだ。
「『僕』の気配がある方に走った。あれは任務に関わる『僕』だと思う。ぼくが探している『僕』なのかはわからないけど。たどり着いたのがここだった。『僕』は何処に行ったの?」
「『僕』というのは誰?俺は綾川由貴。そばにいるのは桜沢涼。さっきまで女の子がひとり、この部屋にいたけど、その子の一人称は『僕』じゃなかった。探している人は『僕』という一人称を使うの?」
「うん」
揺葉忍は肯定し、由貴に近づいてきた。頬に触れる。
「似てるけど、あなたじゃない。あなたは違う」
「似てる?俺が?」
「うん」
由貴の中に『まさか』という思いがかすめてゆく。綾川由貴に似ているという『僕』なら。ひとりしか。
「四季のこと?」
「四季…?」
揺葉忍は記憶を手繰り寄せるように呟いた。
「四季が、ぼくが探している『僕』?」
「さあ。ところで君は俺と涼の知っている忍?」
「ぼくは揺葉忍。ぼくのことを知っているなら、ぼくは綾川由貴と桜沢涼の知っている忍」
謎めいた答え方をする。
──携帯が鳴り出した。
着信。綾川四季。
どういうタイミングなんだろうか。
「…ちょっと待ってて」
由貴は断りを入れ電話に出た。
「はい。四季?」
『ああ、今、電話大丈夫?』
「大丈夫…ではないんだけど。丁度四季に聞きたいことあった」
『え…。何?』
「今、となりに忍いる?」
『うん。いるよ。ふたりで楽器店に楽譜見に来ているところ。由貴、欲しい楽譜あるって言ってたなって思って電話したんだけど』
「そう。大丈夫。楽譜は親父に頼んだから。ありがとう」
『何かあったの?』
「後で話す。ごめんね」
『ううん』
短く通話を終わらせて、由貴は揺葉忍を見る。
忍がふたりいる。
大変なことになった。
*

