「忍は大丈夫?」

「え?」

「誰かから嫌がらせされるとか、そういうことはない?」

 忍もどちらかというとやっかみの標的にされやすい雰囲気があった。

 そこはかとなく品のよい色気で男子に人気があり、音楽の才能もあり、成績もいい。

 彼氏である四季の方も、容姿端麗で優しく女の子にモテるため、不安な要素は少なくはなかった。

 忍は穏やかに言った。

「大丈夫。私には四季がいるから」

 四季の手が忍の頬にふれる。

 ──キスをした。





 忍は四季に告白される前は、由貴のことが好きだった。

 由貴には既に桜沢涼という彼女がいたから、忍は由貴に気持ちを伝えることも出来なかった。

 忍と涼は仲が良く、忍は涼のことも大切だったからである。

 その忍の気持ちを察してくれたのが四季だった。

 行き場のなかった想いは、四季が全部受け止めてくれた。

 由貴が好きだと泣いたこともある。

 でも──それで気持ちが浄化されたのだろうか。

 忍は四季のことが好きになっていた。





「僕、冬って好き」

 忍を抱きしめて四季が言った。

「どうして?」

「抱きしめていると、あったかいから」

「ふふ。夏はどうするの?」

「夏…。どうしようか」

「涼しいところに行こう」

「そうだね」

「一応受験生なんだけど」

「大丈夫だよ。忍は声楽科?」

「うん。四季は?」

「僕はピアノ科。…作曲科と迷っているんだけど」

「作曲したいの?」

「出来るなら。でもピアニストになるのが目標だから、ピアノ科にすると思う」

「涼は作曲科にするって言ってた」

「そう。作曲科か…」

「涼って手が小さいでしょう?本当はピアノを弾きたいんだけど弾けない曲があって…。それで悩んで、作曲科にすることにしたみたい」

「でも実際涼ちゃん、作曲が出来るし。曲を作る才能を伸ばしたいなら、専門的に勉強するのはいいと思う」

「由貴はどうするの?」

 何気なく聞いた忍の問いに、四季は返答に困ってしまう。

「由貴ね…。まだ何も言わないんだよね」