「えっ!?ちょ、ちょっと待って。迷い線消す」

 苳夜は描線を細かくチェックして、綺麗に描き直した。

「描けたよ。で、これが何だって?本になる?」

「そう。ここに持ってきて」

 絵を描いたスケッチブックと出来事を記した紙がユリの前に集められた。

 ユリは集められたそれの上に手を置く。

「みんなも手を置いて」

 神妙な面持ちで、苳夜、祈、智、早瀬、隆史の手がユリの手の上に置かれた。

「この物語を知り、時を共にし、想いを馳せ、描いた者の手が、ここに集まる。カウフェリン・フェネスに生きる者の物語の未来は、描く者が担い、描く者の夢はカウフェリン・フェネスが担う。ひとつの書がこちらとあちらを繋ぐ門になる。『青龍の森の書』、ここに命を吹き込まれたり」

 由貴の書いた物語の一節をユリは諳じた。

 重なった手から光があふれた。

 スケッチブックや書き記した紙は別のものへと姿を変えた。

 「青龍の森の書」なる本が、そこに現れていた。

 ユリ以外の人間は本の出現に驚いたが、ユリはにっこりした。

「今までに書いた、物語が描かれている。開いてみて」

 智が恐る恐る手に取り、ページをめくった。

 由貴の書いたカウフェリン・フェネスの物語から始まり、たった今書いた自分たちの絵や文章が物語に沿ってまとまっていた。

「嘘だろ…。すごすぎる」

「僕の描いた絵も入ってるー」

 それぞれに喜んで、やがて智があることに気づいた。

「あれ…。途中から先、ページが真っ白だけど」

 ユリは答えた。

「その先の物語は、物語が動いた時に記される。由貴がそのように計らった」



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