オーロラ色に染まる塔の周りを電波が行き交う。

 電波の高速道路。

 蜃気楼のような建物に混ざり聳え立つ、その塔のある風景は何処か幻めいている。

 誰が名づけたのか『不思議電波塔』。

 異次元と異次元の間。

 電波塔のてっぺんに程近い窓辺に立つのは、杖を手にした娘。

 娘はいくつかの気になるものを『受信』して、呟いた。

「次元を混乱させる火種があるわ」

 美しい顔に微量の翳り。窓辺から離れた奥の椅子に座っていた青年が「気にするレベルのことかい?」と訊いた。

「まだ大きな反応が出てもいないんだし、小さなことまで片づけはじめたらキリがないだろう、シェネアムーン。少しは休みなよ」

 シェネアムーンは怒ったように言う。

「片づける、片づけない、ではないのよ」

「なら何だい?」

「うまく言えないけれど…壊れそうになっている綺麗なものは、壊れないようにしたくはならない?そういう空気があるの」

「あるがままに、なすがままに。君がそう思うならそうすればいい」

 淡々と語る青年フェロウに、シェネアムーンは「少し見回ってくるわ」と言った。

「時空に『意図的な』歪みが発生したら呼んで」

「了解」





 コートを羽織り、不思議電波塔の外に出る。

 揺らめく電波の中に、シェネアムーンの姿は溶け込んで行った。



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