晴の中で声がした。
『ねぇ、もういいんじゃない?』
本来の尾形晴の声だった。
尾形晴はいつも静穏だ。
由貴のように苦悩したり努力したりする奴はまだわかるが、こいつはどんな時も控えめで影が薄くて、何を考えているのかわからない。
「うるさいな。凡人。何も出来ない奴は黙ってろ」
『…ひどいな』
「ひどいのは考えなしで自分では何の判断も出来ないバカな人間なんじゃないのか?僕のような得体の知れないものを寄生させていて黙っている神経が気持ち悪いから。お前、生きる価値ないね」
『そう』
尾形晴はやはり穏やかだ。寄生している方はイライラする。
「何だお前、寂しいのか?寂しいなら、もうあの世にでも行っちまえば?生きている意味わからなくなってたんだろ?」
『君、人の身体を借りて好き放題に遊んで、僕に対して申し訳ないとか、そういう気持ちを持つこともないんだね』
「今さら批判か」
『ううん。気が合わないなと僕が思うだけ』
「僕もお前なんか嫌いだね」
『そう。よかった』
「いいことか?」
『さあ。相手の気持ちを知らないよりは知っていた方が落ち着くだけ。謎めいた人が魅力的だという人もいるけど、僕には万人が謎だからわからなすぎて疲れてしまう』
「へぇ。繊細なのも難儀だね」
『繊細…なのかな?君が無神経なだけじゃない?』
「あー。神経なんてぶち切れるね。いちいち細かいこと気にしてたら、気が滅入る」
『ふーん…。繊細な方がいいこともあるのに』
「そうか?」
『うん。ちょっとしたことで幸せになれたりするから。君がつまらないのは、そんな感覚全部まとめてゴミ箱にでも捨ててきたような生き方になっているからだと思うんだけど』
「見てきたようなこと言うな」
『まあ見てきたわけではないけど。でも自分が無神経だからって、繊細な人の感覚がおかしいってバカにするのやめてね』
「尾形晴のくせに命令するな」
『命令はするよ。これは僕の身体だから』

