「なら、あたしたちが下手に動いて、尾形晴を捕まえてどうこうってわけにはいかないんだね」

「はい。とても危険です。条件さえ揃っていれば架空の世界に飛ばされますし、飛ばされないにしても、地震を起こすような離れ業が出来る人間です。普通の人間が戦えば殺されます」

 隆史が深刻な表情になっている。隆史は尾形晴の担任である。智にとってはクラスメイトだ。

 智が隆史を気遣うように「先生、大丈夫か?」と声をかけた。隆史は頷く。

「わかりました。由貴くんの物語を守れば、少なくとも由貴くんたちは戻って来られるという話ですね?」

「はい。尾形晴は綾川由貴さんに宣戦布告をしています。由貴さんが物語を立て直し、尾形晴を納得させられたら、こちらの世界に戻って来られる。この件は解決です」

「その『立て直し』に必要な人材が明日見苳夜ってことか?」

「はい。私が明日見さんに話をしに参ります。明日見さんが警戒されないよう、どなたかついてきて欲しいのですが」

「僕が行きます。担任だし」

「私も行こうかね」

 隆史と早瀬が名乗り出た。

「じゃ、先生と早瀬さんが苳夜んちな。私はユリと涼のお父さんに会って話、してくるわ。心配してるだろうし」

 こうして「こちらの世界」でも話が動きはじめた。



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