普段考えてもいないようなことを一息に言われると何がなんだかな気分になる。

 智はユリに頼み込んだ。

「えーと…。忍…じゃなかった、ユリ?私、んな難しく言われてもわかんないの。もっと簡潔に。手始めにどーすればいいの?教えて」

「まず桜沢涼の父親に、涼のことを知らせに行く。それから明日見苳夜に、こちら側の『書き手(描き手)』を引き受けてくれないか、お願いをしに行く。尾形晴を先に見つけてもいいけど、晴はこちら側にも危険因子をばら蒔いている可能性があるから、むやみに接触すると戦闘になるし、被害も大きくなる可能性がある。出来るだけ『ストーリーを修正する』方向で解決しようとした方が、人間には被害は少ない」

 その時、「こんばんは」と話しかけてくる優しい声があった。

 コートを羽織った少女。

 日本人ではない。が、外国人かといっても「?」と首を傾げるような雰囲気があった。

 不思議な空気を纏っている。

「初めまして。時空管理人、シェネアムーンと申します。先ほど『尾形晴』に不思議電波塔管理の権利を譲ってくれないかと話を持ちかけられました。断ると戦闘になったため、こちらに伝えるのが遅くなりました。──こちらにいるのはチョコレート人形のユリですね?お話は何処まで伝わっているのでしょうか。ユリだけではこちらの人間を守り切るのに人員不足だろうと、フェロウが私をこちらへよこしたのです」

「ええと…シェネアムーンさん?尾形晴くんがあなたと戦闘になったわけですか?」

 隆史が信じられないというように確認をとる。シェネアムーンはにっこりした。

「はい。怪我はすぐに直る程度かと。彼は人間ですので手加減はしましたが。見ますか?」

 コートを脱ぐと、シェネアムーンの服の下は右肩から手首まで包帯をしているのが見えた。

 隆史はそれを見て言葉を失う。

「……。これは…」

「補足しておきますが、尾形晴自身がそう望んでいるのか、それとも尾形晴の器を借りている者がそうしているのかは、まだわかりません。調べてみると彼は少し前までは控えめで穏やかな印象の人物であったようですので、私は尾形晴の器を借りている者がそうさせているのだと見ていますが」