一方、不可解極まりない現実を目の当たりにした、吉野智、綾川隆史、綾川早瀬は、携帯画面の「あちら側」から抜け出てきたチョコレート人形「ユリ」を見て、参ったようだった。

「吉野さん、これ、全部本当なんですよね?」

「私に聞かないで、先生。見たまんまだよ。それが真実」

「あー。あたしもお手上げだわ」

 早瀬もめずらしくキャパオーバーなのか目頭に手をやり上を向いていたが、ややしてチョコレート人形のユリを見て、話しかけた。

「それにしても、ほんとよく出来た人形だね。まさか忍本人ってことはないよね?あんたもうちの四季のこと好きなのかい?」

「ぼくの『四季が好き』は忍の『四季が好き』とは、ちょっと違う。そうでないと困るから。安心していい」

「ふーん…。意外と良心的な作りになってんだな。尾形晴殴った時はえらいびっくりしたけど」

「尾形晴くんもどうなっちゃっているんですか。先生まったく意味がわかりませんよ」

「ああ、マジで。私にも意味わかんない。先生大変だよね。会長に涼に四季に忍に尾形晴に…。明日学校に行ったら頭痛いことウケアイ」

「ああ…。どうにか…出来るものならしたいんですけどねぇ。方法がわからないのがね」

「方法なら、由貴が言ってた」

 ユリがさらりと言った。

「由貴が書いた物語、つまり、あちらで起こっている出来事を、こちらで認識して絵と文章にしてくれる人がいればいい。そうすれば『あちら』と『こちら』が一致して由貴たちもこちらにこられる『ゲート』をつくることが出来る。由貴たちが今、あちらからこちらに渡れないのは、尾形晴が由貴たちを『想像の世界の人間』として設定して、あちらに飛ばしてしまったから。想像の世界の人間ではないために、由貴を知っている人間が由貴の作品を由貴の書いたものだと証明する必要があるのは、そのため」