「ここの式の転換がわかんないんだよね~。なんでxが出てくるの?」



「ほら、これこの式のy=2xをyに代入してるからxだけの式になるんだよ」



「なるほど~!」




相変わらず秀一の教え方はわかりやすい。




幾度窮地を救ってもらったことか。




「これでとりあえず次のテストは安心かなー…」

「おぅ高梨ィ!そんなとこでガリ勉とつるんでねーでこっち来いよ!」




後ろから急に首元に腕を回された。




工藤だ。





秀一は即座に場が悪そうに目を伏せた。



ぼくはもちろん断る術も無く工藤に連れていかれる。





秀一……。




窓際の席に取り残された秀一は、何も言わず黙ってシャーペンを握りしめていた。





こんなことはしょっちゅうある。



何も反抗しないし友達もいなく暗い秀一は、工藤の“ターゲット”だった。





ぼくは親友で幼馴染だから比較的秀一とは話すけれど、こうして工藤にひっぱられたり嫌な顔をされたら秀一から離れるしかない。





逆らったりしたら、ぼくが“ターゲット”になりかねない。





秀一も、それはわかってくれていると思っている。



ぼくらみたいな立場の人間じゃ、どうしようもない『空気』というものを。