キス逃げ【短編】


「昨日、やっと分かったんだ。紗柚が怒ってた理由」

「…どういう事?」

サラサラと風になびく栗色の髪の毛は、中学生の頃から見ていた後ろ姿なのに……

高校生になっていつの間にか私より背が伸びた衛を、私は見上げる様になったね。

私は衛の背中を見つめながら、溢れ出る涙を一生懸命こらえていた。


「紗柚がキス逃げされたのを見て、凄い嫌な気分になった」

「……」

「でも、紗柚は俺が毎日毎日キス逃げされたのを見ていたんだもんな」

振り返った衛は、悲しそうな顔をしていた。


「…別に、衛の彼女じゃないから……止める権利なんて…無いから」


最大の強がり。


じゃなきゃ……
全部壊れちゃう気がしたから。


下唇を噛みながら、衛から視線を逸らした。