♠翼鬼♠

「失礼いたします。雅です。ご指名いただき、ありがとうございます」


中にいる人なんて見たくなくて、顔を伏せたままお決まりの言葉を述べる。


できるのなら、この場から消えてしまいたい。


早く…みんなのところに戻りたい。


そう思いながら…相手が何も言わないから、じっとしていた。


「……なかなか様になってますね。…雅さん」


ようやくかかったその声に、あたしは耳を疑った。


だって…大好きな人の声に、酷似していたから。


驚いて顔を上げると…


「くすっ。どうしたんです、そんな顔して」


そう言って意地悪そうに微笑む、大好きな人がいた。


「……沖田さん…」


どうしよう、泣いてしまいそうだ。


泣くのをぐっと我慢して、でもその場から動けなくて。


「…もっとこっち来てくださいよ」


沖田さんがそう言うまで、動けなかった。


「…なんで、いるの?」


あたしは沖田さんに近寄りながら、そう聞いた。


「この前の遊びのご褒美です。翼鬼を当てれたんで」


「あれって…逢い引きじゃなかった?」


「これだって逢い引きみたいなものでしょう?」


…島原で、逢い引き…。


ちょっとどころか、かなり引く。