「人違いだから」


 俺はねこの肩を引き寄せ、オタク男からねこを庇うようにしながら、そいつに一言そう言ってやった。


「え、でも……」


 男は俺に睨まれて怯んだようだが、それでも納得できないようだ。


 ったく……。確かにねことベリーズのヒロミンには似たところもあるが、全体としては顔から何から全然違うだろうが!

 ヒロミンはもっと色っぽいし、歳はたぶん3つ4つ上だろう。

 何が『大ファンです』だ。聞いて呆れるぜ。


 他の客が何事かとこっちを見ており、目立つのはヤバいんで、さっさと店を出ようと思った。


「ねこ、早く帰ろうぜ?」


 そう言って、ねこの肩を抱いたまま店の出口に向かって歩き出した。すると、


「やっぱりヒロミンじゃん! その人は誰なんですか?」


 オタク男が背後でそんな事を叫んだ。俺達を追っ掛けて来そうな勢いなので、俺とねこは奴から逃げるように駆けだした。