珈琲の香り

だけど、今日は違ったみたい。


「いっちゃん、駅の向こう側って行ってみた?」

「向こう側って、家の方?それとも学校?」

「家の方。昨日散歩してたら、喫茶店見つけちゃった。しかも、いっちゃん好みのコーヒー専門店!」


クルクルと器用にたらこスパを巻きつけながら、桜が微笑む。

その微笑んだ顔が名前の通り桜の花のように可憐で…

姉の私でさえ見惚れちゃう。


…って、あれ?


「…桜はコーヒー苦手だよね?」

「うん…苦手だけど……いっちゃんと一緒に行きたいなーって思って…」


そう言って頬をピンクに染める桜。

…なんて可愛い子なんだろう!!

こんなこと言われたら、ギューってしたくなっちゃうじゃない!

双子じゃなかったら…ううん、女じゃなかったら、きっと好きになっちゃうよ。


……あ、そうか。

「なんか違う」の理由は、この辺にあったのかもしれない…

桜みたいに可愛いこと、一切言えないからね。

場所だけ教えて、「一人で行って」とか言っちゃうもん。

口が裂けても「一緒に行きたいと思って」なんて言えない。

しかも、頬をピンクに染めちゃうなんてこと、絶対にない!!



「…いっちゃん?」

「あ…ごめんごめん。帰りに行こう!!」

「うんっ!」


嬉しそうに笑う桜を見てたら、やっぱり私と桜の違いに意識が行っちゃって…

やっぱりコンプレックス感じちゃう…