珈琲の香り





「ただいま……」


そっと玄関を開けると、桜のお気に入りの赤いヒールが転がってた。

……そういえば、最近桜とすれ違ってばっかりだったな。

朝早い私と、夜遅い桜。

最後に話したの、環さんが浮気したって怒ってたときだっけ。

学部が違うから、学校でも会わないし……


環さんの浮気、どうなったんだろう?

「…って言うか、私も桜みたいに嫉妬す………」




「おっかえりー!」


私の考えは、やけにテンションの高い桜の声で終わりを告げた。


「このテンションの高さって……」

「聞いてー!浮気じゃなかったのー!」


………やっぱり。


「で?浮気じゃないから、最近帰りが遅かったの?」

「うんっ♪」


は~……“うんっ♪”じゃないよ……まったく……


「それよりもっ♪」


……すごーく笑顔の桜が怖い。

顔全部に“すべてを話してね♪”って書いてある……気がする……


恐ろしい……


「いっちゃん、有名人になっちゃったねー」


………はぁ。有名人…ですか……

まさか、こんな切り出してくるとは……ね……