珈琲の香り

「…――樹?酔っちゃった?」

「……ううん。全然大丈夫。」

今までに、私たち二人で飲んだビールは、ジョッキで8杯。

蒼くんの頬はほんのりピンク色に染まっていて、男の子なのに何だか艶っぽくて…


「…負けた」

「何が?」

「…艶っぽさっていうか、色っぽさっていうか…」

「ブハハハハ!なんだ?それ~。」


…思いっきり笑われた。

だってさ、お互いに4杯ずつ飲んでるんだよ?

それなのに、私は顔色一つ変わってなくて、しかも…いや、かなり素面に近い。

それに比べて蒼くんは、ほんのりピンク色の頬で、足取りも“ちょっと酔ってますよ”って感じで。

“可愛らしく酔ってるぞ”感は、蒼くんの方が勝ってて…


「やっぱり負けてる…」


そうつぶやいたら、また、大笑いされた…









「…――ねえ、蒼くん。そろそろ帰ろう?」


私がそう切り出したのは、そろそろ日付が変わろうとしている頃で、結局開店直後の6時から、6時間近く居座ってたことになる。

最初の頃こそ緊張して、お酒も食事も進まなかったけど、程よく酔い始めたころには緊張も解け、たくさん話して、笑って、よく食べて、よく飲んだ。


酔った蒼くんは、研究室で見せる大人の雰囲気ではなくて、子供のような笑顔をずっと見せてくれていた。