珈琲の香り

―――その日の夜


「ただいまー…」

閉店までこき使われたおかげで、買い物もできなかった。

しかも、こういう日に限って…


「お帰り……」


…桜がいるんだよね…

しかも、夕飯の当番、私なのよね…

靴を脱いでリビングに向かうと、桜がお酒を飲みながらテレビを見ていた。


「珍しいね。桜が飲んでるな…ん…て?」

「いっちゃ~ん…」


元気に出迎えてくれた桜の声は、私の顔を見るなり泣き声になった。


「えっ?えっ?何?どうしたの?」

「環が~…だまぎが~…」

「た、環?」


環って、確か桜の彼氏…の名前?だよね…

それがどうしたんだろう?

っていうより、それが原因で飲んでた?


「桜、落ち着いて。着替えてくるから。そしたら話、聞くから。」

「うん…」


いつもフワフワとした印象の桜が、ニコニコと愛らしい笑顔を絶やさない桜が、顔を歪めて泣いてる。

あんな顔、久しぶりに見た。

最後に見たのは…中学の頃?

当時の彼が浮気したって、こんな風に泣いてた。

環さんは、大学入学とほぼ同時だから、かれこれ2年でしょ?

…何かあったかな?