珈琲の香り

「……りょ…涼さん……痛い…………」


どれくらい歩いただろう?

掴まれた手も、履き馴れない靴で追いかけてきた足も、もう限界だった。


「………あ……わりぃ……」

「どこへ……行くつもりですか…………?」


掴まれた手をゆっくりとさすりながら、呼吸を整える。

できることなら、このまま靴も脱いでしまいたい。


「……あと少し。もう少しなんだ……」


さっきまでの怖いほど真剣な顔と違って、今は泣き出してしまいそうな、悲しそうな顔をしている。

そう………

さっき、常連さんに風花さんのことを言われた時のように……


あと少し………

あと少し、もう少し……

そこには、何があるの?

涼さんを怖いほど追い詰める、何か……


「もう少しだけ、付き合ってくれ……」


もう、何も言えない。

今にも泣きそうな顔で『もう少しだけ』なんて言われたら……

もう少し付き合った先に、何が待っているのか。

それはわからない。

だけど、このまま涼さんと離れるなんてできない。

こんなに悲しい顔をした人を、一人になんてできない。


「……わかりました。でも、もう少しゆっくり歩いてください。足の長さが違うんですから。」


私はできるだけ明るい声を出した。

涼さんに笑って欲しくて。

そんな悲しい顔、もう見たくないから……