珈琲の香り

涼さんの言葉が、店内に響く。

鋭く、悲しく……


「す……すまん。つい……」

「いえ……俺こそつい大きな声出してしまって……」

気まずそうに俯く涼さんの手元が、ほんの少しだけ震えてる。

こんな格好、してこなければよかった……

私がこんな格好してきたから、涼さんに辛い思いをさせてしまったんだ……

私が……



そう思うと、すごく辛くて、悲しくて……

この場から逃げ出したくて……

でも、足が動かない。

そんなときだった。



『逃げないで。涼のためにも……』



そうはっきりと聞こえた。

聞いたことのないほど澄んだ、女性の声だった。



風花………さん………?

きっと、風花さんの声だ。

はっきりと聞こえた。

『逃げないで』って……

どういうこと?

涼さんのために、逃げるなって……



そんな風に思っていても、もう風花さんの声は聞こえてこない。


ただ、ひとつだけわかること。

それは、ここから、逃げちゃいけないってこと。

涼さんの手が震えていても、この、どうしようもなく暗い雰囲気でも。

今、この場から逃げたしちゃいけない。

私にできることなんてないのかもしれない。

でも、この場から逃げない。