珈琲の香り

「ボーッとするな!余計なこと考えないで、仕事しろ!」

「……はいっ!」


今はただ、涼さんのそばで働ける。

あんな風に告白したけど、いつもと変わらない態度でいてくれる。

その気持ちに答えなきゃ!


おへその辺りにグッと力を入れて、カウンターにあるモーニングを運ぶ。


「お待たせしました。Aセットになります。」


どうか、顔がひきつりませんように……

涼さんへの思いが、風花さんへの気後れが、顔に出ませんように……


今はただ、目の前のモーニングを運ぶ。

それだけに集中しなきゃ。


そんな時だった。

開店当時から通ってる常連さんの一言に、私だけでなく、涼さんも固まった。


「今日の樹ちゃんは、ずいぶんと女の子らしい格好だね。そんな格好をしてると、風花ちゃんが戻ってきたみたいだ。」


何となく言った言葉だったと思う。

悪気もなく。

だけど、今の私と涼さんには、痛い言葉だった。


『風花ちゃんが戻ってきたみたいだ。』


……あ……だめ………

目頭が熱くなる。

今何か言ったら、泣いちゃいそう……


「やめてください。風花はもういないんです。あいつはもう……」