珈琲の香り

ゼミの帰り道。

桜と待ち合わせした私は、桜に会うなり


「…――新堂くんが!私を“可愛い”って言ってくれたー!」


と、叫んでしまった……

どれだけ恥ずかしいことしてるんだろう……

わかってるの!

わかってるのよ!恥ずかしいことしてるって!

でも、嬉しかったんだもん!


「よかったねー。」


桜は笑って私をギュッてしてくれた。

ふんわりと香る甘い桜の匂い。


同じ親から双子で生まれて、どうしてこんなに違うの?

私の匂いって、機械油の匂いがするんだよね……

まあ、工学部だから仕方ないか……

なんて諦めちゃダメだよね。

諦めちゃうから、男どもにバカにされるんだ!



「…――私も…お化粧とかしたら、新堂くん、好きになってくれるかな?」

「それはどうかな?…だって、いつものいっちゃんを見てるんでしょ?それでも可愛いって言ってくれるなら必要ないんじゃない?」

「そうかな……」

「そうだよー。同じゼミなんだし、今さらでしょ?それに、いっちゃん。いつも素っぴんだし」


……うっ

今さらって……

素っぴんって……


そんなに可愛い顔して冷たいこと言わないでよっ!

確かに素っぴんだよ。

おしゃれとは無縁だよ。

女の子らしさなんて、欠片もないよ。

だけど、好きな人に可愛いって思ってもらいたいじゃん!


「…いっちゃんにお化粧は似合わないし。」


……はい…だめ押しの一言……



可愛い顔して、時々とんでもなく冷たいことを言い放つんだよね。桜って……