「はじめはここに呼んでも、泣きつづけるだけで。名前も教えてくれないから、学生かどうかも分からない。音楽療法の前に、1人の人間として相手がこちらを見てくれないことが、とても不安だった」

比べられるのが嫌・・・。失ったものは、ピアノ。

「それでも、なぜかよーこは毎日、ここに来るんだ」

「えっ・・・」



緑色の栞をそっと外すと、小さな鍵があった。

「ピアノの鍵・・・?」

「すぐ分かるよね。ねみちゃんもピアノ弾く子だから」

私も、きっとどこかの引き出しにしまってる。とっても愛らしい鍵。

「よーこは毎日、オレの目を盗んでは鍵、閉めちゃうんだ」

「それで、分かったの?」