先にCDを拾ったのは、一人の若い男の人だった。 「これ、ベートーヴェンだね。同じの持ってるからすぐ分かったよ。キミ、好きなんだ。どの曲がお気に入り?」 「あの・・・」 「あっ、ごめんなさい。はい。壊れてはないね。気を付けて」 「すみません、どうも」 ちょうどその時、次の電車がホームへ入ってきた。これに乗らなくちゃ・・・。急ぎ足で電車に向かう。 「あっ、キミー」 「えっ?」 少し立ちどまる。私に何か言いたそうな顔を向ける。 ルルルル・・・ 出発の合図が鳴っている。 「これ、持ってて」