いずみはキリルの顔を伺うように見つめる。
 初めて会った時と変わらず、キリルは淡々としている。だが水月と言い合う時、心なしか人間味を感じられる気がした。
 ……言っている内容は厳しくて、理解し難いものばかりだけれど。

 ムスッとした水月にキリルは背を向け、「用事はそれだけだ」と気配なく離れていく。
 扉を開けながら、振り向かずに声を出した。

「何度も言うようだが、余計な真似はするな。お前たちは自分のやるべきことだけ考えていればいい」

 そう言い残し、キリルは消えるように部屋を出て行く。
 やっぱり聞かれていたかと、いずみと水月は顔を見合わせた。

「……だってよ。まあ、この件に関してはオレもキリルと同意見だ。自分の手に負えないことには目をつむったほうがいいぜ」

 コクリと頷きながら、いずみは浮かんでしまった疑問のことを考える。
 どうしようも出来ないことだと分かっていても、今日の一件が心に引っかかって取れない。

 寝床に入って瞼を閉じても消し去ることはできず、なかなか寝付くことはできなかった。