白き薬師とエレーナの剣

 虚ろだったジェラルドの目が、心なしか物珍しそうに見開かれる。
 それも束の間、半開きの精気のない目に戻ると、鈍い動きで頷いた。

「使い道があると言うなら、あやつらを生かしてやろう。お前の手足として存分に使えばいい。気に入らなければ遠慮なく捨てろ」

 人を物として扱うような発言に、いずみの胸奥が大きく騒ぐ。
 そんな言い方はしないで欲しいと、声を出して言いたい。

 しかし反発したところで、状況は悪化してしまうだけ。
 いずみは奥歯を噛み締めて悔しさをこらえ、「……ありがとうございます」と恭しく一礼した。

 ジェラルドは小さく息をついてから、今度は水月へ視線を移した。

「余が不老不死になるまで、そこの小童に逃げられては困るな。キリルよ、こやつが逃げぬよう足首を切り落として、地下牢の鎖にでも繋いでおけ」

 容赦のない扱いにいずみは思わずぎょっとなり、水月を見やる。
 動揺で顔から血の気は引いているが、彼はジェラルドへ挑むような眼差しを向けていた。

 キリルが「はい」と口にした直後、水月が「お待ち下さい!」と話に割って入った。

「オレは……いえ、私は『久遠の花』の薬を扱っていた商人の息子です。彼女の足元には及びませんが、素人よりも薬草の知識はありますし、稀少な材料を入手するツテもあります」

 緊張で乾いた唇を軽く湿らせてから、水月はさらに口を動かす。

「陛下、どうか私に彼女の手伝いをさせて下さい。正体がバレぬよう、私も名と姿を変えます。ここから離れられない彼女に代わって、特殊な材料を調達する役目を担わせて下さい」

 祈るように水月が深々と頭を垂れる。
 必死な彼とは対照的に、ジェラルドは口端を引き上げて冷笑を滲ませる。

「白々しい綺麗事だな。どうせ我が身可愛さに逃げ出そうと思っているのだろう?」

「絶対に逃げ出しません! 私は彼女に命を救われました……そんな恩人を置いて、自由になどなりたくありません」

 いつになく真剣な、一切の揺らぎがない力強い声。
 ジェラルドは怪訝そうに目を細めて水月を見据えた後、キリルに顔を向けた。

「キリルよ……お前はこやつの言うことを信じられるか?」 

 話を振られ、キリルはチラリと横目で水月を見る。
 彼には珍しく、即答せずに少し考え込んでから口を開いた。