青年は瞳だけを動かして周囲を見渡すと、鋭く踵を返した。

「もうここに用はない、行くぞ。その娘と小僧は絶対に逃すな。……逃せばこの場にいる全員の命、ないと思え」

 動揺に揺れた声で「分かりました」と追手たちは口にする。
 青年の言葉が大げさなものではなく、変えようのない事実なのだと物語っていた。

 乱暴に二人の男から腕を捕まれ、いずみと水月は無理矢理立たされる。
 ギュッと唇を噛みながら、いずみは彼らを交互に見た。

「私は逃げませんから、どうか離して下さい」

「駄目だ。そんなことを言って隙を作って逃げる気だろ」

「ではせめて、片方の腕だけ離してくれませんか?」

 いずみはチラリと水月を見やる。

「せめて彼と手を繋がせて下さい……お願いします」

 男たちが顔を見合わせ、「どうする?」と囁き合う。
 二、三、言葉を交わしてから、左腕を掴んでいた男が手を離した。

 自力で立てず、男たちに引きずられそうになっていた水月へ、いずみは手を伸ばす。

 土に汚れた彼の手を握り込むと、いずみはぎこちなく微笑んだ。

「水月、安心して。絶対に貴方を死なせはしないから」

「……い、ずみ」

 赤く腫れぼったくなった水月の目が、力なくいずみに向けられる。

 ほの暗い絶望の色に染まっていた瞳へ、徐々に光が灯り始める。
 水月は袖で涙を拭うと、いずみの手を強く握り返した。