桃色の蜘蛛、只一つの罪【短篇】


ふいに現れた男。
どこから来たのかもわからない彼は、私が振り払えなかった手を簡単に…容赦なく払い、酔った若者と私に距離を作った。

いや…“作ってくれた”。

─もう行っていいよ。そこの交番に声だけかけといて。

男の声は聞こえていた。
でも、私はその声を聞き終えるよりも先に駆け出していた。

──動揺…。

今までの人生で、困っている時、善の心を動かした時、迷っている時、自分の味方になってくれる物も者も無かった私。

そう言う“星”なのだと思い込んでいた私。

今日もそう…。