社会人一年目。

あたしには、付き合って三年になる彼氏がいる。

学生時代から付き合っている、四歳年上の彼だ。

クールで知的な彼は、友達からの評価が高い。

そんな彼と、今日の休みは家デート。

一人暮らしの彼の家で、あたしたちはお互い、好みの過ごし方をしていた。

彼は二人掛けソファーで、難しいビジネス用の雑誌を読んでいる。

そしてあたしは、ソファーにもたれかかり、床の上に座って、ファッション雑誌で流行のスタイルをチェック中…。

と言いたいところだけれど、実は後ろの彼が気になって仕方ない。

ゆっくり振り向くと、気が付いた彼がメガネ越しにあたしを見た。

スタイリッシュな黒ぶちメガネは、知的さを倍増させ、キレイな二重の目をより色っぽく際立たせている。

「ねえ、さっきからページをめくってないでしょ?」

ソファーに乗り、彼の顔を見つめる。

すると、小さく笑った彼が雑誌を閉じた。

「気が付いてたか。いつお前が隣に来てくれるかなって、思ってたんだよ」

「ズルイ…。そういう言い方」

いつだって、気になって声をかけるのは、あたしなんだから。

それにしても、こんなにメガネが似合う人も、そうはいないと思う。

見つめれば見つめるほど、レンズの奥の瞳に吸い込まれそう。

薄く茶色がかった瞳が、少し細くなった。

「メガネを取って」

「え…?」

彼はあたしの両腕を軽く掴み、優しく言った。

「キスをしよう」

そして、誘導するようにあたしの手をメガネに持っていく。

震えるその手で、メガネをゆっくり取ると、彼の整った目元がハッキリと見えた。

メガネを掛けている時は知的で、取ると甘い雰囲気を醸し出して…。

どちらの彼も色っぽい。

そして彼の唇が、ゆっくりとあたしに重なった。

左手で彼のメガネを持ったまま、どこまでも重なり合う唇。

そしてその甘い夢から覚めた時、またあたしは彼にメガネを掛けるのだった。

「メガネを取ってキスをしよう」

そう言ってもらう為に…。