「天才サックスプレイヤーって

書かれてんで」



親友のジンが、からかうように笑って

バーカウンターの上に開いた雑誌を

見下ろした。




「マジかんべん。

取材とかオレむいてねぇわ」



カウンターごしに立つジンは、

何も入っていない

逆三角型のカクテルグラスを

オレの前に置いた。



「えーっと、


“将来の夢は?との質問に

魚塚 奏は、はっきり答えた。

夢はありません。

だって夢は寝てるときに見るものだから。

オレが叶えたいのは現実だから。

現実にしか興味ありません。


夢はない。目標ならあります。

伴奏無しのソロでも聴かせられる

プレイヤーになること。”


ウォッカ、カーッコイイ♪」




「ジン!口に出して読むなって!」



オレはパタンと音をたてて雑誌を閉じた。