翌日、幹部たちが広間に集められた。


「久佐波啓次郎と申します。どうぞよろしくお願い致します。」



幹部たちの前で深々と頭を下げているのは、つい先日まで毎日のように顔を合わせていた、忍びの久佐波さんだった。

はて、なぜここにいるのかというと。



「久佐波さんは商家の大旦那様だったのを、商いを息子さんに譲り、余生を幕府のために捧げたいという思いの元、入団を決意してくれた。」


近藤さんからの説明を聞いて、硬直した。


商家?
大旦那?
余生?


…いやいや、久佐波さん、ばりばり働いてたよ。


おじ様に愛想つかして出てきたのか?!
いやいや、久佐波さんは大人だからきっとそんなことしない。
それに柊の後見人だし。
そんな無責任なことするはずないし…


…私の、護衛という名の監視?


「久佐波さんには監察についてもらう。
 みな、仲よくな!」






「奏楽様。」


広間をでて廊下を歩いていると後ろから声をかけられた


「…久佐波さん。
 様はやめましょう、様は。」


「ですが…」


久佐波さんは皺のある目じりを下げて困ったように微笑んだ。

だが譲れないものは譲れない。


「ダメです。」


「…わかりました。奏楽さん。」


「なんでしょう?」


にこやかな笑顔で返事をした私に、久佐波さん苦笑いを零した。