結局、ほとんど何も話さず駅に着いた。
終電の時間まであと5分といったところ。
間に合ってしまったか・・・。

もっとのろのろ歩けばよかったかな・・・
それよりも着替えをゆっくりすればよかった・・・
いやいや、あの時終電があるなんて言わないで、
さっさとどっかに行けばよかった・・・。

改札のところで別れようとして、
ケンちゃんが改札の中を覗く。
「すげー」ケンちゃんがホームで抱き合っているカップルを見つけて笑った。


「え?」

「いやぁ・・・今時いるんだねぇ・・・まじすげー」


ホームには終電とはいえ、金曜の夜ということで結構人がいる。
大勢の人に見られてもお構いなしなのか、
唇が立てる音がこちらまで聞こえそうなくらいの激しさだ。
柱に隠れているつもりなのか、
いや実はみんなに見てほしいのか。

抱き合ってディープキスをしている、あの後姿って・・・
ん・・・?違うよな・・・いや、違う人でありますように。

私がなかなか改札に入らないので、
不信な顔をしたケンちゃんが「どした?」なんて聞いてくる。
あの斜めがけしているカバン・・・
私があげたやつに似ているよな・・・と思った時、
女の方が見えた。ユキだ。
やっぱりビンゴ。

私がくるっと回転して、改札を後にし、足早に歩き出したので、
ケンちゃんが慌てて追っかけてくる。


「え?いいの?もう終電くるよ?」

「いいの」

「ちょ、ちょっと待って」


ケンちゃんは止めてあったMTBを慌てて取りに行った。
もう月日も随分経つし、慣れたつもりだったけど、
やっぱりあんな二人を見たくなかった。
そして会いたくもなかった。
ちくしょう。

ケンちゃんが追いついてきた。


「何?もしかして生理的にああいうの見るのイヤだったとか?」

「別に」

「何なんだよ・・・」

「ね?飲みにいこ」

「いいけど・・・いいの?終電」

「いいの、早く行こうよ」


どこに行くかなー、と頭の中のリストを思い浮かべているケンちゃんに私は言った。


「ケンちゃんちに行きたい!!」