「俺もこれ済ませたら手伝うからさ、頑張ろうぜ?な?」

「うん・・・」


ついつい不機嫌な表情が出てしまう。
そんな私を見て、ケンちゃんがおどけた顔でからかってきた。


「あれ?遠野も部屋に待っている彼氏がいたりとかした?」

「いないけど」

「ほーーー、いないんだ?」

「いませんっ!・・・ってかケンちゃんはどうなのよ?」

「何が?」

「彼女はいないの?」

「俺?そうねー、もう選り取り見取りってやつ」

「はぁぁん、そうですか」


憎まれ口を叩きつつ、これを終えないと
夕食にもあり付けないので黙々と手を動かしていく。
ケンちゃんはゴミをまとめるとレジの精算をしたりしている。

やっぱり今日の売上げは、いつもより20%も多かったぞ、と教えてくれた。
大入り袋出るかな?とかニヤニヤ考えていたら、お皿を一枚割ってしまった。

ガチャン、という派手な音でケンちゃんが慌てて駆けつける。


「何やってんだ、ドジ」


右手の小指を少し切っていて、血が出ていた。

イテテ、と肩をすくめながら舐めて「よし、これでOK」と言うと


「そんなんじゃダメだって」


と絆創膏を持ってきて貼ろうとしてくれたので、
なんだか照れ臭くなり、絆創膏を取り上げ、


「いいよ、自分でやるから」


と真っ赤になって言うと、また取り上げられて


「いいから貸してみ。左手じゃ張りにくいだろ」


ケンちゃんの手が私の指に触れる。
心臓がトクンと跳ねた。
店の安い洗剤で荒れた私の手と違って、
きれいな大きい手だ。指も細くて長い。
「ありがと」と小声で言って、割れた皿を片付けようとしていたら、止められた。


「もういいから、後は俺がするよ。
 あとは・・・そうだな、テーブルカバー外しといて」

「わかった・・・ごめんね」

「いいって、さっさと終わらせよーぜ」


頭をぽんと叩かれる。