【短編】隣にいる君が

ケンちゃんが車に戻ってきて、
片手に熱い缶コーヒーを持っている。

「はい」と差出し「落ち着いた?」と聞かれ、
コクンと頷くと「じゃぁ帰るか」とエンジンをかけた。

帰り道もやはり無言の車内だったけど、
重苦しい空気は消えて、沈黙でも嫌な感じではない。
見覚えのある町並みが見えてきて、ナビをする。
やっと私の住んでいるアパートが見えてきた。


「送ってくれてありがとう」

「うん・・・」


じゃ、と車のドアを開けようとしたら、
ケンちゃんが口を開く。


「あっあの・・・さっきの・・・アレ・・・本気だから」

「・・・うん」

「もし他に誰もいないんだったら・・・俺と・・・」

「私もね、ケンちゃんのこと好きだよ」

「え?」

「ずっとなんか気になってて、今日ちゃんと自分の中で好きなんだなって解った」

「ホントに?・・・じゃぁ・・・付き合ってくれる?」


笑って「うん」と答える。


「次のバイト、明日だっけ?」

「うん」

「俺、ミズキのシフトチェックしながら、自分の入れてたの知ってた?」

「うそー!そうなの??私もだよ?なーんだ、だからケンちゃんなかなか書き込まないですごい苦労してた・・・」

「じゃ、今度からはさ、一緒に決めよ、な」

「うん」

「で、明日!バイト終わったら俺んち来ること!」

「なんで?」

「ほら、今日の続きしようぜ」

「続き?」

「ベッドで・・・」

「え~~いきなり??ケンちゃんって・・・やっぱえっち・・・」

「うそうそ、一人じゃ飲めないからさ。あんなに酒買いやがって・・・ったく!」


頭をコツンとこづかれる。
その痛くないコツンがすごく嬉しい。

じゃぁ、また明日と笑って言えた。


冬の気配がきている夜風は厳しく寒いけれど、
私はスキップするかのように2階へ上る階段をかけのぼった。

お風呂から上がったら、爪を磨こう。