その宝箱をしっかりと胸の中にしっかりと抱き締め、中身が崩れないようにその場に横になった。

お母さんに見つかるとひどく怒られるだろうから、中身を使うことはない。

けれども、こうして抱き締めるだけで自然と笑みがこぼれ、幸せな気分になれる。

お母さんの化粧箱は私にとっては、まさに宝箱そのものだ。



ゆっくりと目を閉じ、宝箱の中身を使い、お姫様になった私を想像する。



綺麗に化粧して、優しく微笑む前橋由香・・・

何歳の私かは決めていないが、そこに微笑む私がきっとこの宝箱を使うときだろう。



そう。

この宝箱を使うときは、もう決めているのだ。

だから、今みたいにこそこそしているときに使うのではない。



もう一度宝箱をぎゅっと抱き締め、静かにもとの場所に戻す。

廊下に出て、もう一度足音を立てないようにゆっくりと歩いた。