慌てて涙を拭っていると、男の人が携帯電話を差し出してきた。


「親に電話だけしておきな。

全く何も言わずに出てきたんじゃ、親も心配するだろうから」


その言葉に目の前が明るくなった気がした。


「まあ、どっちにしろ心配はするだろうけどな。

聞かれたくないなら外で電話してこればいいし、俺に連絡先を知られたくないなら終わったら発信歴から削除しておけよ」


男の人は運転席のドアのほうに寄りかかり、昼寝の態勢に入っていた。

携帯電話を手に持ち助手席のドアに手を掛けたところで、男の人を起こしてはいけないと思いゆっくりとした動作になる。

ドアを開け、物音を立てないように慎重にトラックから降りる。


「十二時四十五分には出発するからな」


目を閉じたまま男の人は言ってきて、軽く会釈をしてトラックから離れた。

母に電話するという行為に気は進まないものの、男の人の優しさが嬉しくて空を見上げて微笑んでみる。

さっきまで不安で一杯だったが、この旅が上手くいくような気がしてきた。