「おい……。」


「こらこら、無視するなよ。」




慌てる彼女を更に引き寄せ外に出ると横から邪魔者の声がした。


「ちっ。」


「うわ~何だろね~その顔…キモいよ。」


ニヤつく啓志を睨みつけ、通り過ぎる。


「帰る。」


「黒兎は?」


「………。」


啓志の問いに答えず駅へと向かった。


亜由美と奴の間にどんな会話があったのかは分からない。


けど、亜由美の表情には何の戸惑いもなかった…。


奴の事はどうでもいい…。害にならなければ、気にする事もない。



「ねぇ…『黒兎』って何?」


今まで黙っていた亜由美が奴の事を聞いてきた。


「大昔の暴れん坊だよ。」


いつの間にか後ろにいた啓志が答える。


ちっ、余計な事を…。


「ふ~ん、…今はいないの?」


「いない…、気にすんな。」

他の奴の事なんか考えんなよ。




「和哉は心狭いね~。」


繰り出した拳は軽く啓志にかわされた。


啓志と小競り合いをしてる内に駅に着いた。


「あ、岳君は?」


「「あっ……。」」


忘れてた……。

まぁ、いいか…あいつ女大好きだしな。