紫乃原、と聞いて、聖はある人物を思い出した。
 
先程人生最大の醜態をさらしてしまった、あの少女──。

「……その人の名前……もしかして、李苑って言わないか……?」
 
そうであって欲しくない、と恐る恐る聞いてみた。

「ああ、そうだ。……聖の知り合いか?」

「いや、知り合いというほどでは…」
 
消え去ったはずの羞恥心がドドドッと勢い良く舞い戻ってきた。

(うわあああっっ)
 
バッとタオルケットを被り、また床に突っ伏した。

「……どうしたのだ?」
 
真吏の驚いたような声がする。

「何でもない……」
 
聖は聞き取れないくらいの小さな声で答えた。

 

この日一日、聖は食事も取らずに部屋に閉じこもり、皆を心配させたのであった。