大理石のように美しい石で造られた床をカツカツ鳴らし、急ぎ足で歩いていく。

(完全に遅刻だ)
 
ティージェはこれでもかなり急いだはずだった。

本日予定されている天帝の聖誕祭の余興に行われる武術大会の主審役、という重大な役割を、天帝から直々に命を受けたのだから、今日こそは遅刻せずに会場にたどり着かなくてはならなかった。
 
しかし。

(ああ、なんでこんな日にまで寝坊するんだお前はっ!)
 
自分で自分を窘める。
 
ついいつもの癖で人より多く眠ってしまい、それで女官に迷惑をかけ、両親には怒鳴られ、超特急で天帝の座するこの善見城までたどり着いたのだが……。


「あっ、毘沙門天<びしゃもんてん>様、お待ちしておりました!」
 
大会の役員になっている神将が2人、駆け寄ってくる。

「すまない……また遅れてしまった」
 
申し訳なさそうに謝ると、神将の一人がきょとんとして言った。

「いいえ、まだ時間前ですが……。今日は随分お早いご到着ですね」
 
ニコニコ笑顔でそう言われる。一歩間違えば嫌味に聞こえそうな台詞だが、ティージェはその言葉にホッと安堵した後、時間を間違えていたのだろうか、と持っていた懐中時計を開いた。

時刻は天帝から伝え聞いた時間を大幅に過ぎていた。脳に刻み込んだ時間だ、間違えてはいない。すると天帝から伝えられた時間がかなり早かったことになり、騙された、ということになる。

(俺がいつも寝坊して周りに迷惑かけているのを見かねて、嘘をつかれたのか)
 
その事実に、がっくりと項垂れる。