「そうだよ、沙都美ちゃん。事故に遭って意識不明なんだろ? そのせいでおばさんかなり参ってるのに、お前が家にいてやらなくてどうすんだよ」

「ちょっと待て……」
 
聖は混乱する。蒼馬が何を言っているのか分からない。

「沙都美って……誰のことだ?」

「はあ? 何言ってんだよ、妹だろ? まさか忘れたなんて言うなよ?」

「妹……?」
 
蒼馬の言っていることは本当なのだろうか。聖は必死にその名の妹のことを思い出そうとした。だがそうしようとすると、急に激しい頭痛に襲われた。

「──っ」
 
あまりの痛みに、頭を抱え込んだまま倒れた。

「セイ!?」

「聖? どうしたのっ!?」
 
周りの声が遥か遠くに聞こえる。

(何だよ……これ)
 
思い出そうとした瞬間に襲ってきた頭痛。

(思い出してはいけないこと?)
 
本能的にそう感じる。

(そうだ、思い出してはいけないんだ。全部壊れてしまうから。みんな──)

 
そこで意識が途切れた。その刹那に考えていたことを、おそらく聖は理解していないだろう。


みんな、死んでしまうから。君を失ってしまうから。だから思い出してはいけないんだ──。

 

強い願いだった。



『しかし、運命はその願いすら、受け入れてはくれない』
 
フォーチュンは呟く。

『光が、五つ……』
 
運命は順調に、悲しい方向へと進んでいる……。