「まあまあ、そんなに落ち込まない。蒼馬くんは聖の友達なんですって?」

「はい、そうです。あ、でも俺が勝手にそう思ってるだけかも……」
 
またしても落ち込もうとする蒼馬に、聖は軽くため息をついて、言った。

「そんなことないぞ」

「……セイ」
 
蒼馬の表情は見る間に明るくなっていった。単純な奴である。

「ところで、ここには何の御用で来たのかしら?」

「あ、これ」
 
と、ズボンのポケットから赤い財布を取り出す。

「これ、届けようと思って」

「あーっ、あたしの財布! どこにあったの?」

「街中のファミレスの椅子。俺、親戚のとこに来てて、一緒にご飯食べに来たら、椅子の端にあったんだ。店の人に預けようとしたら中身ぶちまけちゃって……。中に入ってた名刺見たら近くみたいだったから、直接届けようと思って」

「本当? そっか、あそこだったんだー。あそこは奢って貰ったから気付かなかったのね。ありがとう、届けてくれて」

「いや、俺の方こそお礼言わなきゃ。ここでセイに逢えるとは思わなかったから。……でもセイ、家に帰らなくていいのか? おばさん、心配してたぜ」
 
その言葉を聞いてドキッとする。

「……母さん、元気にしてた?」

「元気ではなかったと思う。かなり疲れてるみたいだった。沙都美ちゃんのこともあるし……」

「沙都美……?」
 
“聞き覚えのない”名前に聞き返す。