「紅葉殿ではないなら、お前は誰だ」 
 
ソファに腰を下ろした少年がそう訊ねてくる。聖は少し間を置いて、自分のこの家での立場を考えた。

「……居候」

「居候か。では居候、紅葉殿が戻られるまで、お邪魔していてもよいだろうか」
 
自分で『居候』と名乗っておいて何だが、他人に堂々と『居候』と言われると腹が立つ。

「構わないと思う……けど、俺の名前は天野聖だ」
 
このままではずっと『居候』と呼ばれそうなので、聖は名乗り直した。

「そうか、名乗らず失礼した。私は柊真吏<ひいらぎ しんり>という」

「……柊?」
 
聞き覚えのある名前だった。
 
紅葉が「お客様が来たらこれ出してね」と用意していったお茶と茶菓子を出しながら考える。
 
そうしているとすぐに紅葉が帰ってきた。

「すみません、お待たせいたしました」

「いや、良いのだ。時間より早く着いてしまい、失礼した」
 
紅葉はソファの横に鞄を置くと、真吏の向かい側に座った。  

「私が飛高紅葉です。柊真吏さんですね?」

「はい。お忙しいところ時間を裂いていただき、申しわけない」

「構いませんわ。……あの、もう少し普通に喋っていただいて結構ですよ」
 
どうやら紅葉もこの少年の口調に違和感を感じているらしい。笑顔が少し引きつっている。

「ああ、気にしないでくれ。これは私の癖なのだ」

「……そうですか」
 
ごほん、と咳払いをし、紅葉は気を取り直した。