深緑の湖に映る緑の木々と青空を眺めて立っていると、砂砂利を踏みしめる足音が近づいてきた。
 
振り返ると、紺色のブレザーを着た同じくらいの年の少年がこちらに向かって歩いてくるところだった。サラサラの黒髪が風に揺れている。
 
少年は聖に気付くと立ち止まり、声をかけてきた。 

「そこの少年、少し訊ねたいことがあるのだが、時間は宜しいか?」

「……」
 
まだ幼さの残るその顔からは想像出来ない不遜な口調であった。違和感を感じ、つい返事を返すのを忘れてしまった。

「良いのか悪いのか、はっきりしろ」
 
返事のない聖に、少年は堂々とした口調で言い放つ。それでハッと我に返り、ようやく口を開いた。

「あ、ああ、いいよ。何?」

「うむ。では訊ねるが、飛高という家をご存知か?」

「飛高? それならすぐそこだよ」

「すぐそこというと?」

「俺、そこに住んでるから、案内する」

「おお、では貴殿が紅葉殿か」

「……違う」
 
名前で性別くらい分かりそうなものだが。
 
とりあえずその少年を飛高邸まで案内し、中のリビングへ通した。