「じゃあ、俺家に帰ってお母さんたちに言ってくる」

「うん、気をつけてね」
 
蓮が家を出て行った後、聖はぽつり、と話し始めた。

「あの、飛高さん……」
 
言いかけると、紅葉が勢い良くこちらにやってきた。

「『さん』はいらないわ。名前で呼び捨てでいいから。かたくるしいの嫌いなのよね。あたしも聖って呼んでいいかしら?」

「ああ、俺のことは構わないけど……」

自分が呼び捨てにされるのは構わないが、年上の人を呼び捨てにすることに少し抵抗を感じ、口ごもる。

それに気付いた紅葉が、にっこりと微笑んだ。

「いいから、ね?」

「……はい」

「敬語もなしで」

「ええ!?」

少し戸惑ったが、紅葉の笑顔が有無を言わさない怖いものに見えたので、逆らわないでおくことにした。

「で、何?」

紅葉が本題に戻してくれる。

「うん……色々迷惑かけてごめん」

「ああ、いいのよ全然。この家広すぎて寂しかったから、むしろ同居人が出来てうれしいわ。それにね……何だか変なこと言うけど、聖って初対面の気がしないのよね。それに……」