「紅葉さんは怖いですから、くれぐれも怒らせないようにね」
 
小声で言ったのだろうが、圭一郎の大きな声は紅葉までしっかりと聞こえていた。

「もうっ、圭一郎さん! 変なこと吹き込まないでください!」

「おや、聞こえていましたか。では天野くん、気をつけて」

「圭一郎さん!」
 
怒る紅葉に手を振りながら、圭一郎は去っていった。

「まったくもうっ」
 
紅葉は怒ると怖い。目を釣り上げる彼女を見ていると、それはあながち嘘ではないだろうと思えた。そんな聖の視線に気付いたのか、紅葉はにこっと笑ってみせた。

「ほほほほ、じゃあ改めまして、飛高紅葉です。今日からよろしくね」

「こちらこそ……」
 
そう言う態度が何となく怖がっているように見えたのか、紅葉は精一杯優しそうな笑顔を作った。

「ああ、怖がらなくていいのよ。圭一郎さんの言ったことは全部嘘なんだから」

「俺、本当だと思うよ」
 
ボソリと呟いた蓮は、間髪入れずに紅葉に拳骨を飛ばされた。

(和泉さんの言ったことは、やっぱり正しい……)
 
今ので改めて確信する。

「俺は刈間蓮。言ってなかったけど、紅葉とはいとこ同士なんだ。そうだ、紅葉、俺もしばらくこっちに泊まろうかな」

「ああ、構わないわよ」

「やたっ! じゃあ、俺も今日からよろしく」

「ああ……」

「聖くんは無口だなー。でも大丈夫。その分俺が喋るから」

「うるさかったら殴ってもいいからね」

「紅葉ーっ」
 
仲のいい二人を見て、聖は心を和ませた。今まで安らげる場所が“なかった”ので、こういう雰囲気には慣れていないが、落ち着ける。