ジリジリと地表を焼いていた灼熱の太陽が徐々に影を潜め、ゆるやかに季節が移り変わろうとしていた。

 
日が傾き出し、橙の日差しが差し込む教室。聖と向かい合っていた女性担任教師は、大きく息を吐きながら頷いた。

「分かりました。志望校はこのままでいいのね。……本当はね、推薦してあげたかったんだけど……」
 
ペラペラとノートを捲りながら、担任は申し訳なさそうに苦笑した。

「いえ、この出席日数では仕方ないですから。自力で頑張ります」
 
きちっと背筋を伸ばし、担任にそう答える。

「そう。あ、……お家の方も大変だったわね」

「はい。……でも、もうすっきりしましたから」
 
一点の曇りもない、爽やかな表情だった。
 
 

退院して家に戻ると、父の姿はなかった。
 
沙都美が事故に遭い、聖までもが家出をして行方を晦まし、その間、静は一人で考えたのだ。
 
こうなったのは全て、自分の弱さにあると。
 
優しい子供達に甘え、母親として自立しようとしなかった報いが、今来ているのだと。
 
圭一郎から聖の無事を聞いた静が真っ先に取った行動は、夫に離婚届を突きつけることだった。
 
世間体を気にする父は離婚などしないと言い張ったそうだが、静は今まで受けたドメスティック・バイオレンスのことが世間に知れるよりはいいだろうと詰め寄った。
 
静の強い押しに負けたのか、現在は互いに弁護士を立てて離婚調停中だ。それももうすぐ終わるだろう。