FORTUNE~フォーチュンシリーズPAGE1

「ええと、天野聖くん、よね? あたしの声、聞こえてる?」
 
聖は目だけを動かし、紅葉の方を見た。

「……聞こえる」
 
僅かに動く唇から、少し擦れた声が出た。

「良かった。ごめんなさいね、あたしの乗っていた車がぶつかっちゃったの。覚えてる?」

聖は少し目を閉じて、今までのことを脳裏に思い浮かべてみた。

家を飛び出して。当てもなく歩いて。いつの間にか、山の中に迷い込んで……。

「わかる……気がする…」

「そう……。あ、どこか痛いところある?」

「……全身」

「……そうよね、ごめんなさい」
 
紅葉は自分の乗っていた車ではねてしまったことに責任を感じ、謝る。

聖は僅かに左右に頭を動かし、否定の意志を示した。それを見て紅葉は苦笑する。

「ああ、そうだわ。目が覚めたばかりでこんなこと聞くのもなんだけど、おかっぱ頭の可愛い子、知らない? たぶん小学……うーん、中学生かな? 一年生くらいの女の子。ちょっと君に似てる感じの」

「……」
 
聖はまだぼんやりとする頭で考えた。
 
答えられるはずだった。その容姿からはすぐに妹の姿が思い浮かぶはずであったから。しかし、聖はこう答えたのだ。


「……知らない」