ゆらり、ゆらり。
白い空間に漂う意識は、温かい、水の中を漂っているかのように心地良い空間を彷徨っていた。
眠りを妨げないよう、静かに、ゆっくりと流されている。
それが、急に何かに引っ張られた。
『……ちゃん……』
ずっと遠くで、懐かしい声がした。聖はその声を拾おうと、意識を集中させる。
『おに……ちゃん……』
この、声は……。
(ああ、沙都美。お前か……)
「お兄ちゃん!」
ハッと目を覚ます。
僅かに霞む目に映る、最愛の妹の姿。
「お、にい、ちゃ……」
聖を覗き込む沙都美の顔が、見る間に歪んでいく。
「うわあああ、お兄ちゃん! お兄ちゃん──!」
泣き喚きながら、聖に縋り付く沙都美に──聖は、ただ呆然とした。
何が。
一体何が起きているのだろう。
「よ、良かった、目が覚めて……私、お母さん呼んでくるからっ」
ゴシゴシと目を擦り、沙都美は駆けて行く。
その姿を見送ってから起き上がろうとして──全身に激痛を感じ、恐る恐る身を起こした。
ハア、と息を吐いてから、辺りを見渡す。
白い壁、白い天井。ツンと鼻につく微かな薬品の匂い。窓の外からは溢れんばかりの太陽の日差し……。


