「毘沙門天の“気”が、消えた……」
 
ギュッと拳を握り、阿修羅王が言った。

「また……私達は何も出来なかったのか……!」
 
小刻みに震える肩を、夜叉王はそっと抱きしめる。

「こうなったからには、天界から軍が派遣されるかもしれん。人間界に直接関わってはならないなどという掟も、破壊されては意味が無くなるからな」

「──それじゃあ、遅すぎる……」
 
 
何をしてももう遅い。
 
消えた命は、戻ってはこないのだから──。




 
聖の体は、深い闇をゆっくりと落ちていた。
 
とても静かで──何も聞こえない。何も感じない。手足の感覚もない。自分がここにいることすら解らなくなりそうな、そんな空間。
 
今まで何をしていたのかも、この深い闇の中ではどうでもいいことのように思える。
 
何も考えずにこのまま、心地良い眠りにつこうと目を閉じると──。

 
リィン。

 
透明な鈴の音が、微かに聞こえてきた。

 
リィン。

 
それは眠りにつくことよりも、心地良い音色。


(ここは……)
 
忘却の彼方に流れていきそうだった意識が、ゆるやかに戻ってくる。

(俺は……どうして……)
 
目の前が真っ赤に染まり、痛みを感じる間もなく、地面に叩き付けられて──。

(死んだ、のか……?)