「ジャクラ、何だ?」
 
真吏は訊いた。
 
ジャクラはチラリと真吏を見た後──後ろを振り返った。

「摩利支天……ヴァジュラが攻撃してきている気配、するか?」
 
十夜は質問されると、ゆっくりと顔を上げ、神経を尖らせた。

「えっ? ……いや、攻撃が止まっている。何故だ?」

「向こうも動揺してんのか? なら……今のうちに話してやる」

ジャクラは短く息を吐くと、一気に捲し立てて言った。

「お前達の辿ってきた“運命”を変えるのに、一番可能性のあるものを俺たちは実行しようとした。それは、吉祥天を殺して、毘沙門天の力を引き出すことだ。二千年前も最後に残った毘沙門天一人の力では、ヴァジュラを消し去る事は出来なかった。では、何故勝てたのか?」
 
そこで、一区切りする。
 
真吏と十夜は、食い入るようにジャクラを見つめた。

「毘沙門の一族というのは……創造神の血を継がせるための一族なんだ」

「創造神──!?」
 
2人はハッとする。
 
この宇宙の創造者であり、天界の更に上、天上界に座するこの世界において最高の存在。

「俺たちも、それを知ったのは全てが終わった後だったがな。天帝が遺言として、その事実を遺していたらしい」

「その力を聖が……いや、ティージェが継いでいたというのか?」

「そうだ。ラクシュの死が引き金になって、覚醒した」

「……その力を引き出すために、お前は李苑を殺そうとしていたのか」

「そうだ。ラクシュの生まれ変わりの死が、創造神の力を引き出す鍵だったんだ」