「避けろ!」
 
ジャクラの叫びも空しく、触手は聖、真吏、十夜の体を次々に掠めていった。

それを肌で感じ取った李苑は、もう一度結界を張り直した。触手は弾かれ、その姿を消す。

「……今度は大丈夫なようだな」
 
ジャクラは一先ず安心する。
 
他の仲間まで失いたくない、と思ったのだろう。李苑の瞳は先ほどよりも強く輝いていた。

 
聖たちはかなりの重症を負っている。早く治療したいところだが、李苑はヴァジュラの凄まじい攻撃に、結界を支えるのでやっとだった。
 
恐らく、しばらく休めば自然に回復出来るだろうが──それまで結界を支える自信は、李苑には無かった。

「ジャクラ……」
 
李苑は静かにジャクラを呼んだ。

「どうした?」
 
ジャクラは李苑の正面に膝をつき、彼女と目線を合わせる。

「……時間稼ぎをしたいんです。一緒に、外に出ていただけますか?」
 
その申し出に、ジャクラは「駄目だ」と言うところだった。だが、次の言葉にハッと息を呑んだ。

「ヴァジュラは、私を攻撃できない……ですよね?」
 
僅かに見開かれたジャクラの目を見て、李苑は全てを理解した。

「やっぱり、そうなんですね」

「……知って、たのか」

「はい」
 
李苑は小さく頷く。

 
今、ヴァジュラの攻撃が李苑だけを擦り抜けたこと、阿修羅王がジャクラをこちらに遣したこと、そして、二千年前の記憶が一本の糸として繋がった。